Story Tellers from the Coming Generation! Interactive fighting novel JOJO-CON

空条 Q太郎さんの「ワンチェン(with生首ディオ)」

vs

かんなさん/言造さんの「ブローノ・ブチャラティ」

マッチメーカー :pz@-v2
バトルステージ :アツい○○
ストーリーモード :Fantastic Mode

双方向対戦小説ジョジョ魂



EPILOGUE FOR TONIGHT

〜 夢の雫 〜



33.光あふれる世界へ
〜 White Bless 〜


「クソがッ! どこに行きやがった!」

 カピターレ・モストロの部下達は大騒ぎだった。
 主人の命令は「ブチャラティを捜せ」というだけで、状況が全く伝わっていないのだ。また、モストロがとにかく大慌てで、しかもそのままどこかに消えてしまって携帯電話も通じないため、詳細を確認する事もできない。
 捜索命令が出てから、使用人達の中で「カタギ」である者は屋敷から追い出した。メイドが1人行方不明だが、それぐらいは構わないだろう。あとは、仲間の1人から「もう屋敷内は捜し尽したから外に出ろ」という旨の指示を受け、みんな外に出て行った。
 この男は敷地を囲う塀を一周して、また屋敷の正門前に戻ってきたところだ。もちろん、収穫はなかった。

「あァ――ッ、畜生がッ! もういっぺん(屋敷の)中を捜すかぁ?」
「失礼します」
「あン?」

 屋敷の側を振り返っていた男が再び元の方向に向き直ると、高校生ぐらいの少年が立っていた。初めて見る顔だ。

「何だ、テメーは?」
「はい、パンナコッタ・フーゴと申します。パッショーネの者です」
「!」
「こんな時間に突然、お約束もなしに申し訳ありません。今夜こちらに手前どものボス、ブチャラティがお邪魔しているはずなんですが、ちょっと急ぎの用がありまして。それが、さきほどから当人の携帯電話にもそちらのお屋敷の電話にも応答がないので、直接伺った次第です。お手数ですが、呼び出していただけないでしょうか?」

 フーゴは静かに丁寧に話している。しかし、男の方はそれどころではない。たちまち男はスーツの内ポケットからピストルを取り出した。

「ざけんじゃあねえ! ブチャラティならいねー! モストロ様もだ!」
「……いない? 2人とも? どういう事です?」
「とぼけるな! さては何か裏があるな! モストロ様をどうした!? テメーら、何を企んでやがる!? 素直に白状しねーと……」

 グニャァッ

「……へ?」

 突然、握ったままのピストルの銃身部分がひしゃげた。銃には何も触れていなかったのに、まるで透明人間にでも握り潰されたかのように……。
 次の瞬間、男は背後から何か強い力に突き飛ばされ、うつ伏せに倒れこんだ。そのまま反射的に振り返るが、やはり誰もいない。そして今度はその顔に、目の前にいるフーゴの蹴りが炸裂した。

「この三下がッ! オレをナメてんのかッ!! 急ぎだっつってんだろコラァ! 脳ミソ腐れてんのか!? だいたい、こっちが質問してんのに、なんでそっちまで質問で返してきやがんだ、この……ド低能がァ――ッ!!」

 改めて紹介するが、彼の名はパンナコッタ・フーゴ。名家に生まれ、152という高いIQを持ち、13歳にして大学入学の許可を与えられながらも、平常時からは想像もつかぬ「キレやすい」性格によって道を踏み外した男である。


 フーゴがどうにか落ち着きを取り戻して折檻が終わる頃には、男は半殺しになっていた。その後、男は状況を「素直に」白状した。そして、意外にも要点をわかりやすく簡潔にまとめた説明を終えると、フーゴの「ご苦労さま」の一言とともに気絶させられた。
 しかし、この男は非常に運が良い。彼を突き飛ばしたり銃を潰したりした存在、即ちフーゴのスタンド『パープル・ヘイズ(紫の霧)』が、もしもその真の能力である「殺人ウイルス」を発動させていたら、彼は「半殺し」どころか「肉片」や「固形物」ですらない「肉汁」と化して「病死」していたのだから。
 ちなみにこの男の名前は(覚える必要はないが)サクリフィーチョ・ガルツォーネといった。


 それはさておき、フーゴはここに来る前からずっと焦っていた。
 今日になってから嫌な予感が止まらないのだ。それはローマに行く時も、ローマで「任務」を果たしていた時も、ずっと離れる事はなかった。こういう時に限ってミスタは急な事件で出かけていて連絡が取れず、ジョルノとポルナレフはフィレンツェだ。だからこそ、大急ぎで任務を片付け、ネアポリスに戻ってきたのだ。
 その胸騒ぎを裏付けるかのように、ブチャラティとの定時連絡の携帯電話は通じなかった。実際に出向いてみれば、屋敷はこの通りだ。屋敷の中で何かが起きている……。

(クッ……こんな事なら、本人がどう言おうと、ブチャラティを単独で向かわせるんじゃあなかった……!)

 フーゴは門を開けて敷地内に入ると、周囲に注意を払いながら歩いていった。
 近付いてみて気付いたが、屋敷のドアが微妙に開いている。モストロの配下が出入りした時にこうなった可能性もあるが、どうも不自然だ。
 ドアの向こうに誰か隠れているのか? だが、こちらを覗こうとしているにしては隙間が狭すぎるし、今の立ち位置ならあそこからは死角のはずだが……。

「フーゴ」
「!」

 屋敷の中から聞こえてきたのは、フーゴのよく知る声だった。そしてフーゴが答える前にドアが開き、フーゴのよく知る人物が出てきた。

「ブチャラティ!!」
「おいおい、そんな大声で呼ばなくても聞こえるぜ」

 そう言うと、屋敷から出てきた男は自分の左掌にジッパーで小さな覗き窓を開け、その向こうでウィンクしてみせた。よく使う手軽な本物証明手段。確かにブチャラティだ。
 ……しかし、全身血だらけではないか。染み具合を見る限り、「全てが返り血」という事はない。明らかに本人の血が混じっている。ジッパーで縫合してあるのか、出血は止まっているようだが、実際のダメージは計り知れない。

「どうしたんですか、その血! 一体何があったんです!? 敵はモストロの部下ですか!? それともアールボの写真の誘拐犯ですか!?」
「ああ……誘拐犯と、その黒幕がいてな……驚いたぜ。せいぜいスタンド使いだと思ってたが、あいつらは人間じゃあない。『ゾンビ』と『吸血鬼』だ」
「……はい……?」
「安心しろ。わからない方がたぶん正常だ。それについてはポルナレフさんに連絡を入れておいたから、後で聞いておいてくれ」
「……はぁ……」

 ブチャラティの予想通り、フーゴにはわけがわからなかった。頭脳明晰なフーゴではあるが、当然の事だ。

「いいか、フーゴ。これもポルナレフさんに聞けばわかるが、あの化け物どもは不死身に近い。首を切断したぐらいじゃあ死なない。一応、完全に殺して俺なりに後始末もしてきたが、念のため、後で特に信頼できる部下を呼んで完璧に片付けさせてくれ。確実にだ。とにかく、組織の者もそれ以外も、これ以上この件で犠牲者を出すな…………」
「あ、はい、手配します。それで、誘拐された人達は?」

 フーゴの質問を聞いて、一瞬ブチャラティの表情がこわばった。フーゴが疑問の意思を舌に乗せようとした時、ブチャラティは少しうつむいて再び口を開けた。

「彼らは、全員殺されたようだ……地下に何人分か死体の残骸があった…………あと、外に出るまでに見た限りじゃあ屋敷内には他に誰も残ってなかったようだが……モストロと、ヴィッティマというメイドは……助けられなかった…………」

 ブチャラティの声は暗く沈んでいる。フーゴにはいまだに状況が見えていないが、少なくともブチャラティが犠牲者達を悼んでいる事は理解できる。かける言葉を思いつかずに迷っている時、フーゴは別の重要事項に気付いた。

「そうだ! ゆっくり話してる場合じゃあないですよ! 早く医者に診せないと!」

 フーゴは慌ててポケットから携帯電話を取り出した。しかし、そのボタンを押す前に、その手をブチャラティが制した。

「いや、待て…………その前に……おまえに言っておかなければならない事がある……」
「何言ってるんです! 自分の状態、わかってるんですか!? 話なら車の中ででも聞きますから……」
「フーゴ!」

 ブチャラティの眼は真剣だった。こうなっては何を言っても無駄だという事をフーゴはよく知っている。仕方がない。こうなったら、少しでも早く話を終わらせた方が得策だ。フーゴは小さく溜め息をついた。

「……何なんですか、一体……」
「よし……いいか、フーゴ……2年前の件だ……」
「!」

 ブチャラティ達にとって「2年前」と言えば、ディアボロとの闘いを示す。フーゴが一旦チームを離れ、アバッキオやナランチャを失った、あの闘いだ。

(ブチャラティ……何故こんな時に…………)

「あの時な…………アバッキオが死んだ時、あいつの周りには誰もいなかった…………ナランチャも、殺られた瞬間には、誰もあいつの方を見ていなかったんだ…………誰もな…………
 単独行動だったわけじゃあない。アバッキオは死ぬ数分前、いや、もしかしたらほんの数十秒前まで、俺とナランチャと一緒だった。ナランチャに至っては、俺やジョルノ達みんなと一緒にいたのに、誰も気付かないうちに殺られちまった…………」
「…………」

 トラウマをえぐられるフーゴに対し、ブチャラティは視線を虚空に向け、ただただ静かに話し続ける。

「あいつらは俺を信じて付いて来てくれた。なのに、俺はあいつらを助けるどころか、死に際を看取ってやる事もできなかったんだ…………すぐ近くにいたのに……リーダーなのにな……………………」
「……?」

 フーゴは話の展開に違和感を覚えた。いつもの話なら、ここでは「誰にもどうにもできなかった事だからおまえのせいではない」という方向に進むのだが……?

「それどころか、どういうわけか俺だけが助かった…………俺も死んだのに……それも、本当はあいつらより先に死んでいたのに、何故か俺だけが今日まで生きてきた…………ずっと疑問だったんだ……何故俺だけが助かったのか。……正直、『逆なら良かったのに』と思った事も数え切れないほどある……」
「……ブチャラティ…………」

 話はますますフーゴにとって意外な方向に展開した。
 ブチャラティが自分の内面の苦痛を自分達に語った事などあったろうか。ディアボロの時代、汚い仕事を回されるたびに、内心は苦痛と怒りに満ちていたはずだが、それを口に出す事はなかった。心を開いていないという意味ではない。「組織」に属する者として、自らの正義感から生ずる本音を漏らす事は、自分の命取りになるだけでなく、周囲を巻き添えにする事にも繋がると悟っていたからだ。そして、フーゴ達はみんなブチャラティのそういう性格を理解していたからこそ、常に言外の本心を汲んで行動するように勤めていたのだ。
 しかし、今ブチャラティが語った心境は、何故かフーゴには新事実のように思えた。ブチャラティがナランチャ達の死を悼み、責任を感じている事など、考るまでもなく当然なのに……。

「だがな……少なくとも『自分も死ぬべきだった』と思った事だけはないつもりだ。そうだろ? あいつらは命まで投げ打って、俺に、信じた道を歩ませてくれたんだ。だからこそ、俺にはあいつらの分まで生きる義務がある。あいつらもそれを望んでくれているはずだ。2年間、ずっとそう思って生きてきた……そして、俺が助かった事の意味も、今夜ちょっとわかった気がするんだ…………」
「……意味……?」

 フーゴの問い返しに答えぬまま、ブチャラティは横に数歩だけ足を進め、そのままフーゴの方ではなく夜空に目を向けていた。虚ろだったその視線に再び光が宿ったようでもあるが、その表情はどこか儚げに思われる。

 そんなブチャラティに声をかけようとしたフーゴだったが、唇を動かしかけたその時、別の事柄に気を取られた。
 ブチャラティの位置が変わったせいでモストロ邸が丸見えになったのだが、そのドアの隙間に何かがある。
 フーゴはブチャラティを気にかけながらも、つい警戒心に駆られ、屋敷の中から覗いている「それ」を凝視する。「それ」は完全に地に転がっている。ブチャラティが通った際、踏む事も蹴飛ばす事もなかったのだろうか? そんなささやかな疑問が、ますますフーゴの集中力を強めた。よく観ろ、あれは……?

(…………え……? 『指』…………? いや、『手首』…………『腕』だと?)

 間違いない。屋敷の中からドアの隙間に、何者かの「腕」が伸びているのだ。位置からして「そいつ」はドアのすぐ向こう側に倒れていて、その手だけが見えているのだろう。しかも、よく見れば、血で汚れている上、全く動く様子がない。あれは「死体」か?

(いや、そんな事より…………あの『袖口』……バカな…………)

「なぁ、フーゴ……」
「!」

 いつの間にかフーゴの方に向き直ったブチャラティが突然声をかけてきた。その声も表情も、フーゴのよく知る優しさに満ちたものだ。だが、逆にフーゴの呼吸は乱れ、全身が汗にまみれていた。それに気付いているのか否か、ブチャラティはそのまま語り続ける。

「アバッキオはずっと過去を引きずって生きていた。そのつらさも、孤独さも、むなしさも、誰よりよく理解していたはずだ。そんな奴が、あの世でまでおまえを恨んでいるはずがないさ。……それに、ナランチャが2年も前の事をわざわざ覚えていて根に持ってると思うか? 2人とも、むしろ、おまえがまた戻ってきた事を喜んでくれてる…………恨んでなんかいるわけがない…………」

 言いながら、ブチャラティはその右手をそっとフーゴの肩に乗せた。
 フーゴが瞳だけを横に寄せて確認するその腕には、ドアの隙間に見えるのと同じ柄の袖がある……。

(そうだ……ついさっきここに来た時、ブチャラティはどうやってボクを見つけた? あのドアに覗き穴はない。ジッパーで覗き穴を作っていた様子もなかった。わずかにドアが開いていたが、あの隙間からではボクの位置は死角だったはずだ。あの状況、ドアの向こう側からボクの姿が見えたはずがないんだ……! それこそ……)

 ――それこそ、「物体を透かして相手の魂を直接見る」事でもできない限り――。


 小刻みに震えだしたフーゴの肩に手を置いたまま、ブチャラティは優しく微笑んだ。

「これで良かったんだ、フーゴ。きっと今夜の闘いこそ、2年前に俺だけが助かった理由…………俺の『使命』であり、『運命』だったんだ。そして今やっと、行くべき所に行く時が来たんだ……俺はそう受け取った…………
 悪くない気分だぜ? 少なくともこの2年間は、ちょっと忙しすぎたが、本当に充実していた。それに、何せ、ちょっと大げさになるが、ある意味じゃあ今夜は世界を救ったんだからな。だから……気にする事はない…………」

 ブチャラティの手からは、全く「熱」を……いや、それどころか「硬さ」も、「重さ」すらも感じない。その空虚な感触への実感が強まるにつれ、フーゴの眼からは涙がこぼれ始めた。
 肩に乗っているブチャラティの腕を掴もうとしたはずのフーゴの指は、そのまま己の掌に触れるだけだった。

「あいつらには俺から謝っといてやるよ。だから、おまえはもう気にしなくていい。組織に残るのも自由、足を洗うのも自由だ。前を向いて生きろ…………」
「ブチャラ……ティ…………そんな……やめてくださいよ…………こんな……………………なんで…………」

 フーゴの視界の中、だんだんとブチャラティの身体がぼやけ始めた。涙のせいだけではない。本当にその身が「形」と「色」を失いつつあるのだ。そして、ブチャラティは少しずつ、上昇を始めた。

「フフフ……5年前だったか? チームの中で最初に出会ったおまえがお別れの相手になるとはな……これも運命ってヤツか……
 つらい事は腐るほどあったが、楽しかったぜ……世話をかけたな…………みんなにも宜しく言っておいてくれ…………」
「い……いやだ…………ブチャラティ…………ブチャラティィィィィ――――――――ッ!!」
「アリーヴェ……デルチ……………………」

 ブチャラティは自分を見上げながら慟哭する部下に優しい眼差しを向けながら……最期の言葉をささやいた。
 そして――白く霞みながら天に昇ったブチャラティの姿は、雲に溶け込むようにして、消えた…………。


ブローノ・ブチャラティ……死亡



34.無言の遺言
〜 Black Box 〜


(787、797、809、811、821……落ち着け…………823、827、829……落ち着くんだ…………)

 モストロ邸の1階から地下に続く階段を、1体の人型スタンドが注意深く進んでいた。
 横縞模様のある真っ白い体表、全身に羅列された数種類の文字、比較的逞しいと言える体躯とそれをわずかな面積だけ覆うレザー風の衣とマスク――このスタンドの名は『ホワイトスネイク』。

(941、947、953……『素数』を数えて落ち着くんだ……)

 同じ時、同じように周囲の気配に細心の注意を払いながら、屋敷の1階では1人の「神父」が動き回っていた。『ホワイトスネイク』の本体、エンリコ・プッチ神父が。

(977……『素数』は『1』と『自分の数』でしか割れない孤独な数……983、991……私に勇気を与えてくれる…………997…………1009……)

 持論に基づいて精神の安定を図りつつ、プッチは次の部屋に移った。ブチャラティかモストロを捜しているのだ。

 そもそも、どこをどう間違ったらここまで計画が狂うのだ?
 モストロがパッショーネに商談を持ちかけ、ジョルノ・ジョバァーナを誘い出す。商談の部屋には『ホワイトスネイク』が、別室にはプッチ神父本体が潜む。商談の隙を狙って『ホワイトスネイク』が不意討ちでジョルノを眠らせて『DISC』を奪い、後はその肉体をディオが奪い取るか、しばらく生かしたまま洗脳利用する。ただそれだけの計画だった。
 大半が不意討ちとはいえ、今まで数十人のスタンド使いを倒してきた実績がある『ホワイトスネイク』だ。ジョルノのスタンド能力が不明とはいえ、また、ギャングであるジョルノが警戒慣れしているとはいえ、成功させる自信はあった。仮にジョルノが何人か仲間を連れていたとしても同様だ。もし万が一ジョルノ以外が来た場合でも、次の機会を待つ羽目になる事こそあれ、大きな問題が発生する事はない「はずだった」。

 それが、いざ本番となってみれば、来たのはパッショーネのボスだった。しかもモストロの奴は必要以上に動揺して、プッチに「計画中止」と「撤収」のサインを出してきた。プッチはそれに従い、使用人達の記憶を適当に操作した上で屋敷を出た。
 そこまではまだ良かった。だが、そろそろ商談も終わっただろうという頃に連絡を取ろうとしても、モストロにもディオにも屋敷の使用人達にも、誰にも連絡はつかなかった。
 プッチは慌てて屋敷に戻り、途中で見つけたモストロの部下から(強制的に)顛末を知った。それからその男の記憶を『DISC』で操って洗脳し、仲間に「もう屋敷内は捜し尽したから外に出ろ」という旨の指示を出させた。そして今、もぬけの殻になった屋敷に裏口から侵入し、中を捜し回っている、というわけだ。

 ブチャラティの目的は不明だが、屋敷内にいるか既に逃げ出したかは半々だろう。問題はモストロだ。どこかを捜し回っているか隠れているなら良い。死体が跡形も残らないような手段で殺されたのならそれでも良い。だが、もし敵に連れ去られたのだとしたら……モストロからディオの事が漏れたら……。
 現時点でのプッチ神父の目的はディオの安全の確保だ。しかし、人間誰しも賊が入ったと思えば、自分にとって重要な物が無事かどうか確かめたいと真っ先に思うものだ。だからこそ、敵に付け込まれる危険がある。モストロはそれに気付いただろうか……。
 そういう警戒もあって、プッチ本体はスタンドと別行動している。もちろん単に2箇所を同時に捜せる利点もあるし、万が一「敵側から先に本体を見つけられた」場合に、すぐに「神父」をモストロの一味と考える者も少ないだろうという打算もある。


(ここだ……)

 スタンド『ホワイトスネイク』が地下1階の書斎の前に辿り着いた。ドアが……開いている……。

(まさか!)

 ドアの隙間から『ホワイトスネイク』が室内を覗き込むと、

「!?」

 異様なものが見えた。
 隠し部屋への入口である本棚に、大きな穴が空いている。それも、「強力なパワーで破壊された」というのではなく、まるで最初からそういうデザインであるかのようにきれいな穴が空いていた。明らかに何者かのスタンド能力によるものだ。

(ディオ!)

 今度こそ大慌てで『ホワイトスネイク』が隠し通路に飛び込んだ。大量の本が散らばった階段の中は、何故か妙に明るい……?

 ゴォォァァァ

「何だとおおぉぉぉぉ!?」

 階段を抜けると、そこは火の海だった。
 普段ディオ(とワンチェン)がいる部屋と、2人の「食べカス」を適当に転がしてある物置部屋、そして裏庭への隠し通路の入口が燃えている。しかも、通路入口の本棚にあった本が薪の代わりにバラ撒かれていて、地下室の酸素がなくなるまで自然鎮火は期待できそうにない。

「ディオォ!!」

 地上と地下で、『ホワイトスネイク』と本体プッチが同時に叫んだ。すぐに『ホワイトスネイク』がディオの部屋に駆け込むと、そこにはテーブルも椅子も彫像もなくなっており、辺り一面に何かの破片や本が散らばっている。もちろんディオ(とワンチェン)の姿はない。
 よく見ると、部屋の真ん中で本に埋もれながら誰かが合掌状態で仰向けになっている。

「ディオ!?」

 一瞬、心臓が止まるかと思うほど驚いたが、本の下の「誰か」は、どう見てもディオではなかった。いや、「体」がある時点でディオでない事は確実なのだが、うろたえるあまりそれすら忘れていた。
 誰だ? 焼け残っている衣類は女物に見える。そう言えば、メイドが1人行方不明だったような気がする。あいつがそうなのか?

「チッ!」

 『ホワイトスネイク』が女の死体の周囲を見渡す。すると、本に紛れて、明らかに人体の一部と思しきものが散らばっているではないか。すぐさま『ホワイトスネイク』が駆け寄り、燃える本を手で払い除けた。自然界の炎熱による影響を受けないスタンドにとっては造作もない事だ。
 手、足、肘、肩、足首……ジグソーパズルかというほど人体パーツが見つかるが、「頭」らしきものはない。つまり、今のところこの死骸の中に「ディオ」はいない。もちろん、判別できないほど砕かれた可能性もあるが、その可能性はプッチの脳内で無視された。

「ン!?」

 本の下に『ホワイトスネイク』が何かを見つけた。カーペットの破れ目に挟まっている何かが、炎を反射して光っているようだ。

「こ、これは!」

 『DISC』だった。スタンドのものではなく、記憶の『DISC』。誰のだ?

 ちょうどこの時、プッチ神父本体が地下2階に到着した。

「『ホワイトスネイク』、それをこっちに!」

 プッチは自らのスタンドに近寄ると、消化用に厨房から持ってきたミネラルウォーターをかけて『DISC』を冷やした。そして『ホワイトスネイク』が手に持った『DISC』をそのまま自らの本体の額に押し当てると、まるでシャーベットを掬い取るスプーンのように『DISC』の側面が神父の頭に潜り込んでいき、すぐに頭蓋の内部に達した。同時に、プッチの脳裏に凄まじい勢いで記憶が流れ込んできた。

「あ……あああ……ああ…………」

 プッチが『DISC』に込められた最後の記憶を読み取った時、『ホワイトスネイク』が『DISC』を引き抜いた。もちろんプッチの額には何の痕跡も残っていないが、その表情はさっきまでとはすっかり変わっている。

「間違い……何かの、間違いに……決まっている!」

 『DISC』の記憶に嘘などあるはずがない。そんな事はプッチ本人が一番よくわかっている。だが、それでも信じられなかった。何らかのトリックや幻覚の類を見ただけかもしれないではないか。きっと…………そうに決まっている! そうだ、ディオが……あのディオに限って、こんな事で死ぬなど……『天国』を見る事もなく死ぬなど、あるはずがない!
 そう信じて、信じようとして、プッチ神父は壁の近くまで移動した。『DISC』で見た記憶がもしも、万が一、真実であるなら、ディオが最期を迎えたのはこの辺りだ。

「うっ!?」

 足元を見回すと肉片が散らばっていた。半分以上にはまだ火がついている。原型がないので、体のどの部分なのか一見わからなかった。だが、眼を凝らすと、肉片の1つからは、黄金色の毛髪が生えていた……。

「……………………ディオ……?」

 金髪の人間などどこにでもいる。最近の「食べカス」の中にもいただろう。
 だが、何故かその髪は違った。今まで数え切れないほどこの眼で見た「あの」金髪であると、プッチは感覚で悟った……。

「ああ………ああああああああああ!」

 たった今『DISC』で見たばかりの映像が、プッチの中でフラッシュバックを起こす。そして、砕け散ったディオの肉片が、今度は現実の視界と重なった。そして……一気に「現実」が頭を支配した。
 ――今晩、この地下室で、ディオ・ブランドーは……死んだ。

「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 プッチの絶叫は隠し通路を抜け、誰もいない屋敷の1階まで届くほどだった。

「何故! 何故だ! 何故だ何故だ何故だ何故だ……何故だァァッ!」

 立ち上がり、両手で頭を押さえたまま激しく首を振り回し、顔や足元に涙を振り撒きつつ、プッチはよろよろと入口の向かい側の壁に歩いていった。以前と変わらず、壁には十字架が飾ってある。最初からこの部屋にあった物の中で唯一無傷なものだ。
 プッチは十字架の前にひざまずいた。それが神に対する礼なのか、ショックで崩れ落ちただけなのか、本人にもわからない。

「何故……何故なのですか!! 弟や妹だけでなく、今度は親友までも私から奪い去るというのですか!? これも『天国』への試練であると!? 何故……お教え下さい、神よおおォォォ!!」

 プッチの慟哭はそのまましばらく地下室に響き続けた。


 プッチが発見した『DISC』は、ワンチェンのものだった。
 洗脳のためではなく、ワンチェンにイタリア語を覚えさせるためにプッチが与えた『DISC』だ。それが図らずもこの地下室での死闘の唯一の記録となった。
 ワンチェンはブチャラティのスタンドに殴り飛ばされ、ジッパーで首を半ば切断され、壁に激突した。その際、頭部を壁に打ち付けたショックで(ブチャラティの死角側から)『DISC』が抜けかけていたのだ。その後、ワンチェンが頭を砕かれた際に『DISC』は完全に抜け落ち、ちょうどカーペットの破れ目に入り、ブチャラティは部屋を出るまでその存在に気付く事はなかったというわけだ。

 人間時代にはディオに父親殺しの毒薬を売り、屍生人となってからはまさに手足となってディオに尽くしたこの老人は、自ら主人の最期を記録したブラックボックスとなる事で、その長い長い生涯を終えたのだった。
 19世紀のある寒い夜にイギリス貧民街の小さな薬屋で始まった2人の因縁は、21世紀のある暑い夜、ここネアポリスで全く同じ結末を迎えたのである。


ディオ・ブランドー……死亡

ワンチェン……………死亡




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対戦ソース

空条 Q太郎さんの「ワンチェン(with生首ディオ)」
かんなさん/言造さんの「ブローノ・ブチャラティ」


この対戦小説は 空条 Q太郎さん、かんなさん、言造さんの対戦ソースをもとにpz@-v2が構成しています。
解釈ミスなどあるかもしれませんがご容赦ください。
空条 Q太郎さん、かんなさん、言造さん及び、ワンチェン、ディオ、ブチャラティにもありがとう!

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