記憶の断片
何が…起こったのだ…?
……全く身体が動かない…。

徐倫は…?
徐倫は…無事か…?

結局…
オレは、徐倫には何も…伝えられ…なかった…な……
……本当に、父親として…




Story Tellers from the Coming Generation! Interactive fighting novel JOJO-CON

双方向対戦小説ジョジョ魂




1.想い出の「カス」


「なああにィィイイイッ!?」

DIOが口にした絶叫は、彼自らの「敗北」を如実に物語っていた。
「星の白金」の一撃によって、崩壊していく「世界」。
不死身であるはずの彼の肉体にもヒビが入る。
そして…
それは、修復されない。

「星の白金」に、つまりは空条承太郎に負ける事など、考えられなかった。
パワーでも、スピードでも、精密な動作でも、そして、時を止める能力でも―
全てにおいて、「世界」は「星の白金」に勝っていたはずだった。
だからこそ、承太郎をすぐには殺さなかった。
瞬時に終わる「狩り」は、ゲームとしての面白みに欠ける。
DIOにとっては、承太郎との一騎討ちも所詮は退屈な毎日に対する「余興」でしかなかった。
いや、なかったはずだった。

しかし、これが現実―
侮ってはいけなかったのだ。
この肉体の主で「あった」ジョナサン・ジョースターも持っていた。
そして、今しがたしぼりカスにしたばかりのジョセフ・ジョースターも。
そして、今目の前に立っている空条承太郎も等しく持っている。
ジョースター家伝統の「精神の爆発力」を。
そして、何事も最後まで諦めない粘り強さを。

しかし、ここで散滅するわけにはいかない。
私もここで諦める訳にはいかない。
私はまだ―
せっかく掴んだばかりの―

しかし、彼に残された時間は短いようだった。
肉体の崩壊はさらに進む。
それはもはや頭にまで達しようとしていた。

「バカなァァァァ!このDIOがァァァ!」

「たったひとつの単純な答えだ………
 てめーはおれを怒らせた」

目の前の「ジョースターの血族」は、そう言い捨てる。

コケに…しやがって…。
う……腕を…
頭に達する、その前に…

DIOがそう思うと同時に、彼の肉体は文字通り「爆発」した。
そう、承太郎が頭部も確認できないくらいに。
そして橋の向こうでは―
朝日が昇りかかっていた。
その光は、何よりも美しく承太郎を照らし出し始めた―

その後、DIOの下半身からジョセフへと血液が輸血され、ジョセフは蘇った。

そして…
ジョースターの末裔によって、DIOの肉体は太陽の光の下で、灰となった―

彼らは、その誇り高き精神によって100年に及ぶ闘いに勝ち抜き、そして結果として人類を救った。
何時の日か、この闘いを「想い出」として語る日が来るかもしれない。
そして、その行ないは「未来への遺産」として、人々の間で静かに語り継がれるかもしれない。
素晴らしい事を後世にまで、静かにでも伝えていける事。
それこそが人類の本当のすばらしさかもしれない。

ただ…
「想い出」の中に、致命的な「カス」が残ってしまうという可能性さえ除けば。
そして、その「カス」は時として思いもよらぬ大事を引き起こす。

今がまさにそれであった。
橋の下で、一人の男がDIOの生首を抱え、歎いている。
それは、まるで彼が信じる「神」を失ってしまったかのように。

「DIO様ァァァ…
 このわたくしめが、今こそお役に立って見せますよォォォ〜
 最後まで、どこまでもDIO様についていきますゥゥゥゥ」

この男が誰なのか、そしてDIOの首を抱え、どこへ向かったのかは誰も知らない。
ただ、彼とDIOの生首は、人々から忘却されていったのは確かだった。

そして、時代は流れ、JOJOは交代する。
その誇り高き精神とともに。



2.サヴェジ・ガーデン



伝書バトが飛び去っていく―・
その足に、ひとつのスタンドDISCを持ち。
「サヴェジ・ガーデン作戦」は成功した。

しかし仲間の協力がなければ、この瞬間は永遠に来なかっただろう。
それほど長く、困難な道であった。
様々なホワイトスネイクの妨害。
そして、「牢獄」という限定された空間。
徐倫はそれでも、命懸けで作戦を成功させた。

いや…
DISCを命がけで守ったのはこの徐倫だけではない。
今、DISCを守るためにカエルを降らせたウェザー・リポートも。
DISCをそれこそ「肌身離さず」隠し持ったF・Fも。
DISCを共に探し、そして闘ってくれたエルメェスも。
そして、彼女達の事をいつも助けてくれた、謎の少年エンポリオも。
最後に、彼女の父の馴染であるという、スピードワゴン財団―
これらが一つでもかけていたら、彼女の父、空条承太郎の「一部」を運び出すこの作戦は成功しなかっただろう。

その代償として徐倫は深手を負っていた。
が…
それでも徐倫の「諦めない粘り強さ」は、まだ失われてはいない。

まだ終わっていない。
気を失うのは早い…。
目の前にいる、ホワイトスネイクの正体を掴むまで。
父に会うためなら、なんだってやってやる、どんな困難だって乗り越えてやる。

ホワイトスネイクに向けられた目は、そんな徐倫の感情を剥き出しにして表している。
その徐倫を見つめ、憎々しげに叫ぶホワイトスネイク。

「オレをなめんじゃあないぞッ!
 なんも変わりはしない!
 『スタープラチナ』が戻っても、おまえの父親はただのデクの棒だッ!!」

確かに、徐倫の父を「空条承太郎」として復活させるには、DISCがもう一枚必要だ。
彼の、誇り高き「記憶」が封じ込められたDISCが。
そして、その記憶DISCはホワイトスネイクが依然として握っている。
それは確かだった。

しかし、飛び去ったハト、周りの喧騒は、その発言がホワイトスネイクの負け惜しみである事を明らかにしていた。
スタンドDISCはもはや彼の手の届かぬ所に行ってしまった。
そして、目撃者が確実に出てしまう今、すでに徐倫にとどめを刺す事すら出来ない。
ホワイトスネイクは、もはや声でしかその苛立ちを解消する術を持てなかった。

そしてホワイトスネイクは本体の元へと還る。
しかし、怒りはときに人の注意力を散漫させ、判断を誤らせる。
ホワイトスネイクは気付いていなかった。
その足に絡みついた紐に。
そして、その紐に「ペンダント」が絡みついている事に。



3.ストーン・フリー



「じゃあ…徐倫おねえちゃんは、脱獄を!?」

エンポリオ少年の声が部屋中に響き渡る。
しかし、ここでは声を気にする必要はない。

中庭での騒動からはや3日。
いつも通りの「部屋」に、そしていつも通りのメンバー。
ここでは、他人などいようはずもないから。

「『ホワイトスネイク』の正体がわかり…
 そして、『ホワイトスネイク』があたし達の前から逃げた今、あたしがここにいる必要はない…。
 スピードワゴン財団は、ホワイトスネイクの居場所を特定してくれた。
 ここからそう離れた所じゃない」

徐倫は静かに、言葉を選びながら続ける。

「あたしはヤツを地の果てまで追いかける。
 父の記憶を取り戻し、そしてヤツの命を奪うまで」

徐倫の言葉によって、部屋は緊張と静寂で占められる。
徐倫をはじめ、誰も身じろぎもしない。
―ただ一人、部屋の隅で本を読んでいる「女」を除いて。

「徐倫…
 アンタとはまだ付き合いも短いけど、アンタのこと『仲間』だって思ってる。
 だけど、今回は付き合えない…」

重苦しい空気から口を開いたのは、黒髪の女、エルメェスだった。

「アンタに目的があるように、あたしもこの『水族館』に来たのに目的があるんだ…
 それをほったらかして、あたしの人生は前に進めない」

「あたしも…
 あたしも、あんたには本当に感謝してる。
 あたしに『生きてる』って感覚を与えてくれたのは、徐倫だから。
 だけど、あたしも…
 悪いけど今回は参加できない」

エルメェスの言葉が終わるのを待って、次に口を開いたのはF・Fだった。

「あたしは…
 『ホワイトスネイク』に『知性』を与えられた。
 『ホワイトスネイク』がいなくなったら、あたしはどうなる?
 『ホワイトスネイク』は、創造したDISCは失われないと言った。
 だけど…
 そんな保障が、どこにある?

 徐倫、エルメェス…。
 それに、エンポリオとか、ここでの事―
 全部が消えちまうのか?
 あたしはいなくなっちまうのか?
 あたし自身の手で、作り上げた『想い出』を全て失いたくない。
 あんたの為に命を捨てる事は怖くない。
 徐倫との『想い出』の一部で死ねたら、それは本当に素敵なことだと思う。
 でも…
 あたしは、最後はみんなに『さよなら』と言いたい…。
 いきなり消えるのは…
 わかってくれ…」

二人の言うことは正論であったし、徐倫も無理に「付き合え」とは言えなかった。
エルメェスにしても、F・Fにしても、今まで感謝しきれないほど、徐倫に協力してくれた。
これ以上の協力など、望めない。
むしろ、エルメェスの「目的」に協力できない事、そしてF・Fの「想い出」を全て消してしまいかねない事に、気苦しさすら覚えた。
しかし、徐倫は立ち止まらない。
父の為だけではない。
彼女の血が、ジョースターの血が、ホワイトスネイクを許さなかった。
人の命を奪い、人の記憶を盗み見、そして人の意思すら操るホワイトスネイクを。

「じゃあ…。
 みんな協力できないの!?
 徐倫おねえちゃんは、一人で…!?」

エンポリオ少年の驚きの声を手で制し、徐倫は再び口を開く。
その顔に怒りや落胆は―ない。

「いいんだ、エンポリオ。
 みんな…
 今までありがとう
 心から、そう思う。
 エルメェスも、F・Fも、エンポリオも…
 そして、今ここにはいないウェザー・リポートも…
 あたしが無事にホワイトスネイクを始末して、そしてみんなも無事なら…
 改めて、ここにみんなを迎えにくる。
 それまで、さよならだ…」

「すまない、徐倫…」

「徐倫…
 あたしの事は気にしないで、ホワイトスネイクのヤローをきっちりブッ飛ばしてこいよ!」

エルメェスとF・Fはそれぞれ声をかける。
名残惜しそうに向かい合う1人と2人。
そして、徐倫は部屋を立ち去ろうとした。
と、その時だった―

パタン。
静寂に包まれた部屋で、本を閉じる音が響く。
それまで、エンポリオも徐倫も、気にも留めていなかった人物。
「女」が、読んでいた本を閉じたのだ。
そして徐倫に近づき、言葉を発する―。

「空条徐倫…
 オレが、守ってやるよ…」



4.ナルシソ・アナスイ



「協力…するよ
 そして君が…『ホワイトスネイク』を倒すというのなら、それも手伝おう…
 じゃあ、急ごうか…」

男?
徐倫は「協力する」という言葉以前に、彼女が「彼」であった事にまず驚いた。
声帯も男なら、今自分の手を引いている、この感覚も男のもの―

しかし…
いつもウェザーとこの部屋にいた人。
それだけしか、「彼」に関する知識はない。
本当に、私は「彼」の事を何も知らない。
その名前すら。
それなのに、この「男」は自分に協力してくれるという。
いったい、どんな目的があって?

徐倫だけでない。
それまで無関心を装っていた「男」の突然の決定に、皆が驚き、怪しんだ。
そしてその気持ちは、エンポリオによって代弁される。

「待てッ!アナスイッ!!
 ウェザー・リポートがいない間に、何をたくらんでいるッ!?」

しかし、アナスイは徐倫の手を離さない。
ただ立ち止まり、その背中越しに話す。

「たくらんでいる?
 今の言葉通りだ…
 全力で徐倫を守ってやる。

 気に入ってたんだよ。
 徐倫を初めて見た時から何もかもな―」

「アナスイッ!」

 さらに制止するエンポリオ。
 そこではじめて振り返るアナスイ。

「父親のために脱獄しようという今回の覚悟、さらに気に入った。
 だから…
 オレは徐倫と結婚する」


辺りは静寂に包まれた。
アナスイの話に、一貫性はおろか脈絡すらない。
なぜ、徐倫を助けたら、アナスイは徐倫と結婚できるんだ?
全員の頭の中は、その疑問で埋め尽くされた。

「テメー…
 何言ってんだ?
 徐倫がOKしなきゃ、結婚なんてできねーぞ…?」

エルメェスがたまりかねて口を開く。
しかし、アナスイにはエルメェスの言葉は届かない。
その手を徐倫のあご元に軽く当て、まるでキスをするかのような動作で囁く。

「徐倫…
 オレと結婚してくれ。
 それが、君を助ける条件だ…」

徐倫は思う。
この男は何というか…
キレている。
こいつはこっちの意思なんかまるで無視して、あたしに求婚しているらしい。

あたしの頭の中は、今父の事で一杯だ。
とても、恋愛なんかの余裕はない。
その事がわかっているのか?
少なくとも、正体も何もわからない人間とは結婚したくない。

ただ…
この男もどんな能力かはわからないが、スタンド能力を持っているに違いない。
それに、こいつの瞳の奥に潜むもの―
相当自分の「能力」に自信があると考えて間違いなさそうだ。
今は、一人でも仲間は欲しい―
正直、そう思う。
しかし、もし全てが終わって、もしこの男との約束を守れなかったら?

「徐倫おねえちゃん!
 アナスイは危険だッ!
 彼は、殺人鬼だよ!
 ウェザー・リポートが押さえつけてないと何するかもわからないヤツなんだッ!」

エンポリオの言葉も、あたしの直感も、この男は危険だというおんなじ答えを出している。
―けど
あたしは、父のためになら何でもする。
たとえ泥を舐めることになっても―

「いいだろう…
 全部が終わったら、あんたと結婚する。
 その代わり、力を貸してくれ―」


数時間後―
フロリダ州警察はグリーン・ドルフィン・ストリート刑務所脱獄囚の逮捕へと乗り出した。
脱獄囚の名はナルシソ・アナスイとそして、ジョリーン・クージョー―――



5.蘇る悪鬼



真っ暗な部屋。
張り詰めた空気。
そこに佇む神父。
そして、机に置かれた「生首」。
傍から見れば、これほど奇妙な絵はないだろう。
今話そうとしているのは、話せるはずのない「生首」。
そして、今沈黙しているのは、話せる能力を有するはずの「神父」。

「すぐれた画家や彫刻家は自分の『魂』を目に見える形にできるという所だな…」

机の上の「生首」が呟く。
それに対して、神父が返すのは沈黙のみ―

「まるで時空を超えた『スタンド』だ…。
 そう思わないか? 特にモナリザとミロのビーナスは…」

神父はさらに無言を貫く。
「生首」が本当に言いたい事はわかっている。
だからこそ、何の言葉も返せない。

「なぁ……。私は君のことを言っているんでもあるんだ。
 君のホワイトスネイクは『魂』を形にして保存できる」

その言葉と同時だった。
「生首」の髪が異常な動きを見せ始める。
通常ではありあえない、髪の異常な伸張―

「君はわたしをいつか裏切るのか?
 なぜわたしを襲わない?
 君はわたしの弱点が太陽の光で昼…暗闇で眠るのを知っている。
 おまけに、今私に残されたのは『首』の部分だけ…。
 文字通り、わたしの『寝首』をとればいいだろう………?
 わたしの『ザ・ワールド』をDISCにして奪えば君は王になれる。
 やれよ……」

神父の首に絡められた「糸」は、次第に締め付ける力を強くする。
皮肉だった。
敬虔な聖職者であるはずの彼が、見るからに背教者である「生首」に決断を迫られている―。
その光景は「皮肉」としか言いようがなかった。
しかし、その「皮肉」に対して、神父は口を開き…さらに矛盾した答えを出す。

「そんな事は考えた事もない…
 私は自分を成長させてくれる人間が好きだ。
 君は王の中の王だ…。
 たとえ首だけになっても、それだけは変わらない。
 言ってしまえば、これはこの世の『真理』だ。

 王である君がどこに行きつくのか?
 私はそれについて行きたい。
 たとえその道にどんな困難が待っていようとも。
 神を愛するように君のことを愛している―」

背教を断言した彼の表情には、何の迷いもない。
いや、彼にとっては「生首」こそが「神」であるため、背教とはならないのかもしれない。

神父の顔を見つめる「生首」。
しばらくの時を経て―
神父の首にかけられた髪は、スルスルとそれ自身を縮小させていった。

「すまない……君を侮辱してしまった……
 思ってもみなかったのだ、話をしてると心が落ち着く人間がいるなんて……。
 君がいなくなるのが恐かったのだ…。
 君は気高い『聖職者』になれるだろう」

それに対して、神父は眉毛ひとつ動かすことがない。
この「生首」を信頼しているからこそ、恐怖など全く感じない。
全く変わらない表情は、その証明だった。

「わかってくれればいいんだ…。
 私の方も、君との友情に応えられなかった事を謝らなければならない。
 君の新しい―」

神父の謝罪を、「生首」が目で制する。
しかしその眼光には、怒りでなく友愛の感情で占められている。

「承太郎の身体は、急がなくてもいつか手に入れてみせる。
 それよりも…
 承太郎の娘が君を付けているんだって?」

それを聞いた神父は、握っていた手を開く。
そして、その手の中からペンダントが滑り落ちる。

「ああ…
 どうも、ここの場所も知られたみたいだ。
 こんなものが服についていた。
 一見、ペンダントのようだが…。
 探知機のようだ。
 私が確実に始末するはずだったのに、面倒事に巻き込んでしまって…。
 本当に、君には申し訳が立たない」

その言葉を受けても、「生首」はなお怒らない。
しかし、その眼には警戒の色が強くなっている。

「抜け目がないのは遺伝だな…。
 部下にも迎撃させる予定だが…。
 やはり、今回は私も闘おうと思う」

その言葉に対して、また無言となる神父。
「生首」は、さらに言葉を続ける。

「プッチ、私は君に感謝するよ。
 これも『運命』だろうからな…。
 私が首だけになったのも『運命』なら、承太郎の娘がここに来る事も『運命』。
 そして、この『運命』は。
 常に、我が人生の前に立ちはだかる、ジョースターの血は。
 自ら排除していかなくてはいけない」

プッチは無言を貫いているが、親友の言葉をきちんと理解しているようだった。
考えながら、たまに軽く頷き、そして話に聞き入っている。

「だから、かねてからの約束通り―
 プッチ、君に借りたいものがある。
 目的が終了したら、返すことを約束しよう。
 君相手には、私はウソをつかないよ―」

その言葉に、静かに頭を垂れる神父。
そして静かに口を開く。
彼が今までにその口から唱えた、どんな説法よりも強い意志をもって。

「君が必要というのなら、いくらでも貸そう。
 私は、君の運命をいつまでも見ていたい―」



6.罠とワナ


「なぁ…徐倫。」

屋敷の前で、アナスイが語りかける。

ここはフロリダの廃村―。
過疎化のため捨てられた街には徐倫ら3人以外の人影はなく、ただ風の音が響くのみ。
そして、街全体はまるで「墓標」に見立てられるほど荒れ果てていた。
人の命を弄ぶ悪党が「隠れ家」とするには、まさに絶好の場所と言える。

徐倫たちがここに到着したのは、脱獄から二日後。
そして、この「教会」にたどり着いたのは、ついさっきだ。
そして、入り口を守るスタンド使いと一戦を交え―。
アナスイは、その敵スタンド使いを捕らえている。

日もすでに暮れ、風の音は暗闇に空しく響く。
そんな中でのアナスイの言葉に、徐倫は振り向いた。
が、アナスイが続けたのは、全く「場」に合わない質問だった。

「徐倫は…
 親友とかいるのか?」

まただ。
アナスイの突拍子のない質問と話題。
彼といた2日間、徐倫はうんざりするほどの質問を受けた。
アナスイは徐倫のことを理解しようとしている。
そして、誰よりも大切に想おうと考えてくれている。
それは、徐倫にも痛いほどよくわかる。

ただ…
彼はそれに対して場面を、そして手段を選ばない。
この事は、徐倫にとってすでに大きなストレスとなっていた。

「ええ…それと、この教会に今から突入するのと、何か関係があるの?」

徐倫は面倒くさげに振り向き、そして言葉を投げ捨てる。
しかし、徐倫の気持ちを知ってか知らずか。
アナスイが徐倫に返したのは、いかにも満足げな笑みだった。

「やはり美しい瞳だ…
 もっとオレを見つめてくれ。

 いや、教会を見ててだな…
 オレと君の結婚式に、誰を呼ぼうか考えてたんだよ。
 身内だけで式もいいかなって、思ったりしてるんだが…
 君はどう思う?」

徐倫は返す言葉すら見つからない。
彼に緊張感がないのではない。
そして、目的がわかっていないのでもない。
ただ、この男、ナルシソ・アナスイの目的は―
ほかならぬ徐倫自身だ。
このまま相手していたら、ホワイトスネイクと闘う前にある意味疲れてしまう―。
返す言葉を失ってしまった徐倫は単身教会に乗り込む。
それを追いかけるアナスイ。
どこまでもその足取りと口は軽い。

「まてよ、徐倫。
 照れなくてもいいだろう?
 一人じゃ危ないぞ。
 オレが支えるから―」

しかし、アナスイが敵スタンド使いを引きずりながら教会に入った時だった。

バタン

今しがた入ったばかりのドアがひとりでに閉じる。
そして、ドアは静かにロックされる。

徐倫に緊張が走る。
闇の中で不意討ちを食らえば、こちらの圧倒的不利!
しかし、奥の部屋の机にあるものは―

「風でもない、もちろんオレでもない。
 ワナのようだな…。
 今ならオレのスタンドでこの扉をブチ破れるが?」

とぼけたようなアナスイの口ぶり。
しかし、徐倫の眼は、完全に奥の机へと視線を奪われていた。

「いいえ、アナスイ。
 あたし達は逃げるわけには行かない。
 奥の部屋を見て。
 まだ目が慣れてない?」

言われるままにアナスイが目を移すと―
そこには、机があった。
そして、机の上には―DISC
アナスイは徐倫に問い返す。

「そのまんまワナって感じだな…。
 徐倫、あれは君の父さんのものか?」

徐倫は振り向かないまま、首を振って答える。

「いいえ…
 暗いし、あの距離ではわからないわ…。
 あたしのストーン・フリーで…」

そして、即座に徐倫が右手から「糸」が伸びる。
しかし―。
ガシッ!
徐倫の右手は、すぐにアナスイによって抑えられた。
無言でアナスイの方を向く徐倫。
それに対し、首を横に振るアナスイ。
その顔にはやはり余裕が見られる。

「いいや、徐倫。
 ワナにはまってみようじゃないか。
 ただ…
 オレたちじゃなくて、こいつがだ」

その言葉と同時に、ダイバーダウンによって拘束されていた敵スタンド使いを解き放たれる。
そしてその男に対し、アナスイは「興味を失ったおもちゃ」に対するように言い捨てる。

「さぁ、お前はもう自由だ。
 どこでも行け」

徐倫が驚いたのは当たり前だろう。
確かにこの男のスタンドは戦闘向きのものではなかった。
だから表で闘った時に大ダメージは負わなかった。
しかし、こいつは徐倫の、そしてアナスイのスタンドの正体を知ってしまった。
解き放つのはあまりに危険だろう。

「ちょ…ちょっと、アナスイッ!?
 せっかく倒して捕まえたのに、逃がすなんて―」

その言葉をさえぎるアナスイ。

「大丈夫、オレを信じてくれ」

徐倫とアナスイをよそに、男は奥の部屋へと歩いていく。
壊れたブリキ人形のように、のろのろと、そしてふらふらと。
口では「やっと…開放された…」と呪文のようにブツブツ唱えながら。

そして、男が奥の部屋中央―机付近に差し掛かった時だった。

「もらったァァァァァッ!」

奇声が部屋中に響き渡り、そして人間が天井裏から飛び降りてくる!
そして、その牙は正確に男の首筋を捉えた!

が…
天井から降ってきた男はすぐに気付く。
それが、自分の狙っていた「空条徐倫」でない事に。

「オゴッ!?
 ニ、ニジムラ!?」

それを見て楽しそうに言い捨てるアナスイ。

「ネズミ捕りにヌケサクがかかったな…」

その言葉と同時だった。
「ニジムラ」の肋骨が奇妙に反り返り、そして「ヌケサク」に襲い掛かる!
かわす暇などあろうはずもない。

ドドドスゥ!

あっという間に串刺しにされる「ヌケサク」。

「プギャ!」

奇妙な悲鳴と共に、絡み合った「ヌケサク」と「ニジムラ」は倒れ伏した。
そして、満面の笑みを浮かべたアナスイは満足げに口を開く。

「ワナを仕掛けたつもりか?
 お前みたいなヌケサクには無理だ…」

しかし、「ヌケサク」は動きを止めない。
そのまま、肋骨を引き抜き―叫ぶ!

「ヤロー…
 テメーまで、オレをヌケサク呼ばわりするのか…!?
 オレはDIO様の血を頂いて不死身になっているのだッ!」

それを見ても、アナスイは笑みをやめない。
むしろ、その笑みはさらに冷たく、侮蔑しているかのごとく「ヌケサク」に向けられる。

「おいおい…
 お前がどんなスタンド使いか知らないが、とにかく死んでもらうぜ…
 徐倫、君は離れてろ。
 こいつのクサイ体臭が君に移ったら大事だからな…」




ROUND 1




「プギャ!」

その声は、階上にまで響いた。

そして、その声を聞いた「神父」は静かに立ち、机の上にある「生首」に向かって静かに話し掛ける。

「やはり…
 ヤツらでは役不足のようだ。
 わたしが自ら、ジョースターの血統を絶やしてくれる…」

それに対して、「生首」は微笑を返す。

「君とひとつになれて嬉しい―。
 勝利を祈っているよ」

「神父」はその身をドアの方に向けて、戦場へと赴く。
部屋を出る前に

「やはり…君の体はよくなじむよ、プッチ…」

と言葉を残して。



Story Tellers from the Coming Generation! Interactive fighting novel JOJO-CON

たくたくさんの「ヌケサク&DIO(3部)」

VS

boltさんの「ナルシソ・アナスイ&空条徐倫」

マッチメーカー :かいがら
バトルステージ :『罠』の場所
ストーリーモード :Fantastic Mode

双方向対戦小説ジョジョ魂


To Be Continued !!


タッグマッチ! 大型コンビ対決となりました! ……って、ヌケサク?
神父の体を借りたDIO、そして押し掛け恋人ナルシソ・アナスイ&ジョリーン!

必ず最後に”愛”は勝つ! しかし勝つのはどちらの愛かが問題だ!
「このヌケサク様の愛も忘れるんじゃねーぜ!」

………………。

たくたくさんとboltさんは、ラウンド2に向けて、それぞれ自分のカップル……もとい、自分のコンビが『なにをしたいか?』、『何をしようとするか?』などをテキトーに書いてメールでお送り下さい!


ラウンド2へ / トップページへ戻る

対戦ソース

たくたくさんの「ヌケサク&DIO」 / boltさんの「アナスイ&ジョリーン」


この対戦小説は たくたくさんとboltさんの対戦ソースをもとにかいがらが構成しています。
解釈ミスなどあるかもしれませんがご容赦ください。
たくたくさんとboltさん及び、ヌケサクとDIO、アナスイとジョリーンにもありがとう!

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