Story Tellers from the Coming Generation! Interactive fighting novel JOJO-CON

J・ナッシュさんの「J・ガイル」

VS

戦慄の雲さんの「ギアッチョ」

マッチメーカー :かいがら
バトルステージ :礼拝堂
ストーリーモード :Semi Fantastic Mode


双方向対戦小説ジョジョ魂



ROUND  3


エピローグ序章 待つべきもの


 一人の男が立っていた。
 その男は、何かを待っているかのようだった。

 人を待っている?
 時間を待っている?
 いや、その男は「運命」を待っている。
 これから来るべき運命を待っている。
 たとえその先に幸福が待っていたとしても、たとえ血を流す事になろうとしても、その男は自分の信じた運命を待っている。




9.見落としがちな「穴」


「だがよ…テメーの方が、不利だぜ…!」
 ギアッチョの苦渋の顔にかすかな笑みが浮かぶ。
 ギアッチョの腕の切断面は…すでに凍結していた。
 凍結した切断面から、血液は―――出ない。
 さらに地面に目を向けると、ギアッチョの切断された腕が氷に包まれている。
 ――「保存」のために

「オレは自分の血を流すのは嫌いでなァ!?
 テメーだけ…出血多量で死にやがれ!

 アア…?
 何が『血の砂時計』だァ…?
 血だったら砂時計っていわねーぜ!
 ムカツクヤツだぜ、テメーはよ!!」

 しかし、それが強がりだという事はJ・ガイルの目からも明らかだった。
 すでに多量の血を流してしまい、ギアッチョの顔は蒼白になっている。
 たとえ私の方は止血ができなくても…
 こちらにも勝機がある!

「君は血の砂時計を『拒否』するというわけか…。
 しかし、今までに放出した血液の量、決して少なくはないはず!

 …このJ・ガイル!
 我が友人リズの幸福の為!
 そして我が恩人ポルナレフの情誼に感じ!
 最後まで戦い抜き、勝利する!
 砂時計を抱いたまま眠るのは君だッ!」

「このクソボーズが…
 どこの宗教で人をブチ殺していいって決まりがあンだ!?」

「戦い」に熱狂する二人。
 張り詰めた空気。
「ホワイトアルバム」によって「冷却」されたドゥオーモ内が、熱気に支配されたような感覚にさえ陥りがちな雰囲気。
その緊張はギアッチョの「攻撃」によって、終焉を迎えた。

 再び氷の鎧をまとい、J・ガイルに襲い掛かるギアッチョ。

「今度こそ…
 テメーがくたばるんだよッ!
 テメーにはもう砂時計の3分間すら与えられねぇ!
 シャーベットになりなァァァァァ!」

 絶叫とともに氷の刃がJ・ガイルに振り下ろされる!
 それを見たリズの泣き声が激しくなる!

キィィィィィィィン!!

 しかし、ドゥオーモ内で反響したのは肉を斬り骨を絶つ鈍い音でもなく、J・ガイルの斬殺死体でもなく…鋭い反響音と、そして地に倒れ伏せたギアッチョだった。

「危なかった…。
 本当に、危なかった…」

 J・ガイルは口から出される荒い息を整える事もなく、つぶやく。

「もし…
 もし、偶然に君の『呼吸穴』を見つけていなければ、どうなっていたことか…。
 そして、もし私のスタンドが遠隔操作型でなければ…
 勝利は、なかったかもしれない…」

 J・ガイルはギアッチョに聞かせるように呟き続ける。

「そこらじゅうに血だまりが出来たのは、私にとって救いになった…。
 移動範囲の拡大、攻撃範囲の拡大…。
 もう、君は聞く事も見る事も出来ない。
 せめて安らかに成仏を…」

 徐々に溶解していくギアッチョの「氷の鎧」。
 それを後にしつつ、J・ガイルはリズに優しく声をかけた。

「さぁ、帰ろう…」

 しかし、J・ガイルがリズに近づこうとした刹那―

ガシィ!
 J・ガイルの足は氷に包まれたような感覚に支配された!

「テメーのスタンドからは色々と学ばせてもらったぜ…」

 氷の鎧がはいずりつつ、J・ガイルに呟く。

「誰がテメーみたいなロリコンヤローに、こんなにも強いスタンド能力と鋭い洞察力があると想像する?
 完全に油断したぜ…。
 だが、オレはもっと強い!」

 急激に「冷やされ」ていく足首に慌てつつ、J・ガイルは思わず声を上げる!

「な、何故!?確かに首筋を貫いたはず!?」

「何故、だァ!?
 テメー、自分では修羅場さんざんくぐってたってホザいてて、
 オレの首をちゃんと貫けたのか確認とらねーで騒いでるマヌケにこれ以上言う言葉はねーぜ!
 ブチ…割れな!!!」

 凍りつく右足!

「クッ!」

 やはり詰めが甘い!
 ポルナレフ戦でも、いつでも私はツメが…
 今日何度目かの後悔とともに、J・ガイルは自らの足を根元から切り落とした。

 そして…切り落とされた右足は、そのまま文字通り「ブチ割れ」た―



10.のこされた勝機


ドウッ!!
 J・ガイルはバランスを崩し、地面に倒れ伏す。

「もう…立つ事も出来ねーか?
 クソボーズ…」

 ギアッチョも辛そうな顔のまま、冷笑を浮かべる。
 先ほどと逆で、今度はギアッチョがJ・ガイルを見下しつつ。

「テメー…
 片腕に続き、片足だなぁ!?
 姫様の前で、ザマねぇなぁ!
 どうだ?
 今から白い鯨でも狩りに行くか!?」

 激しいギアッチョの挑発。
 しかしそれに動じる事なく、J・ガイルは自問自答をしていた。
 なにが、いけなかったんだ?
 確かにさっきはあそこから呼吸をしていたはず…。
 そして、ハングドマンはあの一点を正確に狙った。
 それなのに…

 ハングドマンから見える、ギアッチョの首筋は真っ赤な氷で覆われている。
 では、何故?

「知ってるか!?
 白い鯨を狩りにいくバカは…
 最後に死ぬんだぜッ!」

 勢いをつけて振り下ろされるブレード。
 しかし、今度はギアッチョの足がとられる番だった。

 攻撃のみに集中し、重心を安定させていなかったギアッチョは、ハングドマンによってバランスを崩され、これ以上ない見事な転倒を見せる。

ドオオオオォォォゥ!

 ズッシリとした重い衝撃が、地面越しにJ・ガイルにも伝わる。

「テメー…
 これ以上抵抗したってムダだって事、まだわかんねーのか…?」

 業を煮やした表情で、立ち上がるギアッチョ。
 そして倒れ伏したままの姿勢で呟くJ・ガイル。

「執念がないと、何事も終わりなんでね…。
 私の信じる宗教だって『執念を捨てる執念』を持たないと、達成できないものだから…」

 J・ガイルはニヤリとした表情で返す。
 腕に続き、足も失ってしまったJ・ガイルに余裕などあるはずがない。
 今出来る精一杯の「虚勢」―

「テメー…頭おかしいんじゃねーのか?
 『執念を捨てる執念』がある限り、執念はなくならねぇだろうが!
 第一、オレを無視して禅問答しやがって!
 テメーイチイチイラつくんだよッ!
 ブッタ切れやがれェェェ!」

 再び振り下ろされる刃!
 おまけに、今度は足を地面に「凍り付か」せて!

「今度は倒れねェ!
 小細工なんてムダだ!
 死にやがれェェェ!」

 しかし、その絶叫は再び「暖かい感覚」によって、打ち消された。
 自分の右腕や自分の首筋の後ろで感じた「なま暖かいものが噴き出す感覚」―なんで、オレの頚動脈から、この暖かい感覚が…?

「…もろくなってるみたいだな…。
 転んだ時、君の『氷の鎧』にヒビが入ったのを見て…
 目一杯の力で、突かせてもらったよ…」

 J・ガイルが倒れ伏した姿勢のまま、呟く。

「もうあまりしゃべる元気もないよ。
 私には…。

 君は、氷の鎧の内部に『空洞』をつくり、そこに空気を溜め込んでいたな?
 だからこそ呼吸穴を閉じてもそのまま戦えた…。

 しかし、だ。
 そうする事で強度には問題点が出てくる…。
 だから、何とか刺し通せた。
 頚動脈を断たせてもらったよ…」

 ギアッチョの絶叫は続く。

「君は…
 どういうわけか、私のスタンドを見ただけでなく、そのスタンドの正体も知っているようだ…。
 だからこそ、私が後ろから空気穴を狙う事を予測できた…。
 空気穴の時は、私が全力で突かなかったからこそ『負傷』のみで済んだが、今度は…
 君は危険だ、やはり、確実に排除させてもらう―」

 ヨロヨロと立ち上がるギアッチョ。
 出血が止まった所を見ると、また傷口を凍らせて塞いだようだ。

「テメー…
 ここの傷口はうまくふさがらねーじゃねーか…
 調子にノリやがって…
 ブチ殺してやる…」

 怒りを通り越し、蒼白な面で返すギアッチョ。
 それに対して、弱々しい笑みを見せるJ・ガイル。

「そこの傷口は、凍らせて塞いだりすると脳への血の巡りが制限されるぞ?
 どちらにしろ、君にも再び『砂時計』を持ってもらう。
 お互い、残された時間は少ない…。
 さぁ、戦いを続けようか
 殺してから『殺してやる』って言うんじゃなかったのか…?」

 それをギアッチョはお決まりのセリフで返す。

「ムカつくぜ…
 イチイチムカつかせるヤローだ…
 おい…覚悟できてんだろーな…」



IV.黄金の意志


 闘いに魅入られているのか。
 それとも、闘う事が彼らの生き甲斐なのか。
 または、全ての痛みに耐えうるほどの、輝かしい勝利からの報酬があるのか。
 彼らがこの闘いの先に何を見ているのかはわからない。
 彼らがこの闘いに何を託しているのかは理解できない。
 彼らの闘いの根源は、私にもある程度わかった気がする。

 何かを得る為に闘う。
 何かを失わない為に闘う。
 執念のない闘いはありえない。
 欲望がない闘いなど存在しない。
 どんな聖人だって、「公共への正義の敷衍」という「欲望」の為に闘ってきた。
 どんな君子だって、「庶民の幸せ」という「野望」を抱いていた。

 欲望は、抑制されねばならない汚いことか?
 そうではない。
 黄金のような心も、誇り高き精神も、全ては欲望から端を発している。
 欲望を抑え「空」となる事自体、それを己の中に願う欲望だ。
 「善」ということ自体、不善をなさない事に対する執念だ。

 彼らは…
 一方は「道徳」という「執念」を、また一方は「利己」という「執念」を抱いているかに見える。
 それはわたしにとって、非常にうらやましい事だ―
 何かに対して執念を持てる。
 非常にすばらしい事だ―

 では、わたしは何のために、何と闘うか?
 何に対して欲望を抱くのか?
 彼らのように「闘う意義」さえ見出せたなら―
 充実した毎日がそこに待っているような気がする。
 彼らのように、もう一度輝ける気がする。
 わたしは生前、彼らのような黄金の意志を持って闘っていたのだろうか。

 ……ひとつの足音がこの大聖堂に近づいてくる。
「来客」、か?



11.招かれざる珍客


 ひとつの足音がドゥオーモ内に響く。
 そして、その足音は徐々に二人の男へと向いている。
 敵か、味方か。
 それとも、全く無関係の第三者か。
 いずれにしろ、二人の壮絶な闘いには「無粋」なものだった。

 足音は明らかになりつつある。
 もうほんの数秒でここにやってくるだろう。
 二人は互いへの警戒を解かず、足音の主にも警戒をする。

 J・ガイルは心で祈りをささげた。
 仏に、敵の増援でない事を願いながら。
 ギアッチョは軽く舌打ちをした。
 自分に増援など来る訳もない。
 無関係の人間にしろ、クソボーズの味方にしろ、いずれにせよ自分の「邪魔者」にしかならない。

 足音の主の姿は遠くから声をかける。

「へへ…ハデにやらかしてるみてぇだな…
 相手もスタンド使いかよ…」

 二人の眼が出血の為、かすんでいるのか。
 その姿はまだ見えてこない。

「ダンナ…。ナポリ以来か?
 お互い同じ所にたどり着くなんて、ラッキー以外の何者でもねぇなぁ、ダンナ。
 無事で何より…
 って言いてぇんだけどな。
 苦戦しちまってるみてぇだな、ダンナ…」

 どこかおどけたような口調。
 そして、J・ガイルにはよく聞き覚えのある声。

「だから言ったろうが。
 何あるかわかんねーから、二人で一緒に探そうってな…。
 オレの言った通りだっただろ?
 J・ガイルのダンナよォ!」

ザン!

 と二人の霞んだ視界に現れる男!
 今時なウェスタンの格好。
 禁煙パイポを咥えたその顔は、たんに女性の気を引くのにであれば充分すぎるほど整っている。
 そして、どこか崩れたような立ち方と、人を食ったような表情。

 J・ガイルはこの男をよく知っている。
 かつての相棒
 そして今の親友
 ―――ホル・ホースだった。

 突然の「新手の男」の登場で、あっけに取られる二人−そしてリズ。
 しかし、ホル・ホースは自らのペースを崩す事なく話し続ける。
 その視点にはリズを捉えながら。

「J・ガイルのダンナ…。
 オレは確かにそこらじゅうにオンナ作った方が便利だって言ったけどよ…。
 いくらなんでもオレはこんなお嬢ちゃん、相手にしねーぜ。
 もうちょっと相手選べよなァ…
 それとも、ダンナの好みはお嬢ちゃんかい?
 キヒヒ…」

 いかにも楽しげに笑うホル・ホースに対して、ついにギアッチョがキレた。

「テメー、オレは今決闘中なんだよ!
 誰だテメー!
 ムカツクヤローだ!!
 テメーからバラされてぇのか!?
 アアァ!?
 かかって来い!!」

 その刹那だった。
 ギアッチョの左足に熱い感覚が突き抜ける。
 もはや感覚は麻痺しているものの、ギアッチョにとって今日何度目かの負傷…。

 ギアッチョの前には何時の間にかホル・ホースが立っている。
 先程までのおどけた様子とは違い、真摯な表情を作って。

「テメーはジャマなんだよ。
 オレはテメーの事なんか何も知らねーし、テメーはダンナとお取り込み中みてーだ。
 だけどな?
 オレはダンナとの再会を素直に喜びてぇ。
 わりーがオレとダンナは長い付き合いなんでな。
 だから、テメーはジャマ。
 わかるか?

 それによ、ダンナにこんなに傷負わせやがって…。
 オレたちゃコンビだ。
 このホル・ホース様とJ・ガイルのダンナは無敵のコンビだぜ?
 相方をやられてはいそうですかって見過ごせるほど、オレは冷たくねーんでね…。
 そのままくたばってもらおうか」

 ズンズンと銃を片手に近づくホル・ホース。
 ギアッチョは思う。

 最悪だ。
 この男もスタンド使いだ。
 チクショォ…

 …この男のスタンドは「銃」だ。
 そして、かなりの破壊力を持ってやがる。
 今の「空気を入れ込んだ氷の鎧」のままでは間違いなくやられる。
 だけど、氷の鎧を厚くしちまうと、どうしても「空気穴」が必要だ。
 そうすれば、クソボーズの「鏡のスタンド」にオレはやられる。
 どっちにしろ、このままの1対2ではやられる。

 おまけに「時間」もある。
 クソボーズの方ももう長くはもたねぇが、オレもかなりヤバい。
 このまま戦いが長引くと、この時代遅れの奴が一人勝ち残っちまう…。

 クソ…
 なかなか思ったよりも「効果」も出ねぇしよ…


 ギアッチョの頭の中はすでに困惑と恐怖に支配されている。
 しかし、その口は心を裏腹な事を吐く。
 自らも、すでに無駄な強がりである事を知りながら。

「上等だ!
 テメーら二人ともブチ割ってやる!
 カススタンド使いにオレが倒せる訳がねぇ!」

 ホル・ホースは再びニヤニヤしてJ・ガイルの方を向き、そして話す。

「オレ達のコンビプレーの恐ろしさがわかってねーみたいだぜ?
 こいつはお笑いだなァ!ダンナ!

 ンッン〜
 強がりは良くないぜ?
 今からでもゴメンナサイって言えねーのか?
 ま…
 今からテメーがくたばるっていう結果には何も変わりはねーけどなぁ!」

 愉快そうに喋りながらも、その銃口はギアッチョの眉間に向けられる。
 ギアッチョも腕のブレードをすばやく構える。

 新しい緊張。
 部外者を含んだ新しい緊張。
 しかし、状況はすぐに一変した。

 ホル・ホースの銃口の先に一人の男が立ち塞がった。
 片足で、片腕。
 すでにバランスを失ってヨロヨロだが、それでも倒れない。
 これにはさすがのホル・ホースも唖然とした。

「どうしたってんだダンナ!?
 オレの前に立ったら、そのバカを撃ち殺せねーだろーが!」

 しかし、J・ガイルは退かない。
 背中越しのホル・ホースに向かって呟く。

「私は…。
 ここで私は人の手を借りるわけにいかない。
 ホル・ホース…。
 君はいい相棒だ…。
 だから、リズの、あの子の保護をお願いしたい…
 あの子を連れて、遠くに避難してくれ…」

 驚きのあまり、口に咥えた禁煙パイポがポロリと落ちるのにも気づかないホル・ホース。

「なに言ってんだダンナァ!?
 アンタ今片足で、立つのも必死だろーが!
 せっかくオレがポルナレフのヤローを見つけたのに、逢わないでくたばっちまう気か!?」

「どっちでもいいから、はやくしやがれ!」

 苛立ちのあまり、蒼白な顔をしながらも氷の鎧が叫ぶ。
 クソボーズにだって、そしてオレだって残された時間は…すくねぇ…

「そうか、見つかったのか…。
 では、なおさら退けない。
 ポルナレフに逢うのは、ここでこの男を倒してからだ…。
 さぁ、リズを連れて行ってくれ」

 背中越しに伝わる「決意」
 ホル・ホースはもう文字通り、何も言えなかった。

 泣きじゃくるリズを背中に抱いて、ホル・ホースは呟く。

「電話番号、わかるな?
 …ポルナレフも逢いたがっている…。
 必ず、連絡をくれ…」

「………すまない」

 リズとともに走り去るホル・ホース。
 その背中に、笑みを浮かべるJ・ガイル。
 リズ、遠くへ行くんだ。
 そう、安全な所、遠くへ、遠くへ…。

「オレを無視するんじゃね―ぜ…
 茶番は終わりかァ!?
 アアァ!?」

 けんのある言い方でギアッチョは挑発する。
 しかし、その挑発には乗らずにJ・ガイルは静かに返す。

「とりあえず、君の欲望―
 『宝石を取る』って事は阻止できたみたいだ…。
 さぁ…砂時計は、さらに進んだ。
 お互い、死力を尽くそう…」

 ギアッチョはかすかに笑いながら、こう言う
「テメー…
 覚悟が出来てるみてーだな…。
 改めて言わせてもらうぜ!
 ブチ割ってやる!」

 J・ガイルは死相に笑みをたたえて、切り返す

「出来てるさ…。
 あの時から、ずっとな…」




12.殉教者の慟哭


 再び緊張が場を支配する。
 先程までと違い、リズの泣き声もない本当の静寂。
 緊張のためか。
 お互いの身体は熱気を帯びつつある。

 ――いや、緊張のせいではない!
 J・ガイルはその感覚をさらに研ぎ澄ます。
 先程までとは何かが違う。
 身を切るような寒さも何時の間にか感じなくなった。
 そして―――なにより、一面のステンドグラスが曇っている。

「やっと…効果が出てきたみてぇだな…」

 ギアッチョがニヤリと笑う。

「室温の冷却をオレは解いた…。
 テメーのスタンドは『鏡』を使う!
 とっくにわかってんだぜ…?
 極端な冷却から室温が温まり、そしてオレの使った『水分』を一定量開放すると…。
 光るモンには『曇り』が発生する!
 いつも部屋に入るたびメガネが曇ってウゼェと思ったが、こんなトコロで役に立つとはな!
 これでテメーの鏡のスタンドは使えねぇ!」

 J・ガイルはしかし、多少の戸惑いの後、また平常心を取り戻した。
 彼は「鏡のスタンド」と言った。
 つまり、私のスタンドの本質には半分くらいしか気づいていない!
 まだ…勝機はある!

 しかし、J・ガイルがさらなる「恐怖」を覚えるのは、これからだった。

 ギアッチョの周りに細い氷の「針」が浮遊している。
 あれは、何だ?―

「暖めた意味は『曇り』だけじゃねぇ…。
 空気に、充分なほどの水分が『充満』するのを待っていたぜ…。
 オレにここまでさせたんだ、これでくたばれる事を喜びな!」

 針の数は減るどころか、さらにその数を増していく。
 そして…
 それはJ・ガイルに向けて一斉に発射された!

ホワイトアルバム ビターティアーズッ(悲涙)!!
 テメーはお終いだァァァ!」

 氷礫、そして氷針が一度にJ・ガイルに襲い掛かる!
 片足のJ・ガイルには、もはや避ける術はなかった―

ドドドドドドドドドスゥ!

 ドゥオーモ内にすさまじいまでの音が鳴り響く。
 そして…
 J・ガイルは壁に叩き付けられた。
 全ての氷礫と氷針とをその身に浴びて。

「ま……だ…だ」
 J・ガイルは虚ろな眼をしながらも、まだ立ち上がろうとする。

「もう、テメーは立ち上がっても無駄だぜ…。
 テメーに打ち込んだ氷針は、空気を氷結させたモンだ。
 空気を体内に、おまけに多量に入れちまったテメーは確実に死ぬ…。
 砂時計を待つまでもなくな…」

 しかし、J・ガイルはついにふらふらと立ち上がる。
 片足を、そして片手を?がれながらも、戦士はまだ「死んで」いない。

「ムダだって言ってんのがわからねーのか…?
 もう寝とけ。
 オレもダリィんだよ…」

 ギアッチョの「勧告」を聞いているのかいないのか、それとももはや聞こえないのか。
 J・ガイルはそれには返答せず、呟きを始める。

「過去の私は…」

「アン?」

「過去の私は、スタンドの『力』しか見ていなかった…
 『力』さえあれば、何もいらない…
 そう、思ってた…
 しかし、スタンドの『力』だけを利用するのは、真のスタンド使いとは言えない…
 そう『心のない力』は…
 誇り高き精神があってこそ、スタンドの本当の力は…

 …今は違う…。
 私は我がスタンドの暗示、『自己犠牲』『試練』を理解した…。
 これから見せるのが、私の言った…『本当の力』『黄金の精神』だ…」

「おもしれェ…
 じゃあ、これをもう一回喰らってから見せてもらおうか!
 ホワイトアルバム ビターティアーズッ!!

 再びギアッチョの周りに氷針と氷礫が集まる。
 すでに…
 J・ガイルには防ぐ手立ても避ける手立てもない。

 一斉に襲い掛かる氷。
 J・ガイルはその身に氷を次々と含んでいく。
 しかし、刹那にJ・ガイルの放った言葉は、勝利を確信したはずのギアッチョに衝撃を与えた。

「待っていたよ…
 一度…見た技だ…
 それを、待っていた…」

 待っていた?
 こいつ、死にたかったのか?
 いや、そんなワケはねぇ…。

 なんだ、この「光」…
 何で、氷針の、氷礫の間を「光線」が行き交いしてんだ?
 こいつのスタンド…
 鏡じゃねぇのか!?

「私は、もはや『死』を受け入れるしかないだろう…。
 しかし、私一人、死ぬ訳には…
 君はあまりに危険だ…
 君も、一緒に…」

「光」は氷を眩く、そして幻想的に織り成す。
 しかし、この「美しさ」が、この男の最後の「賭け」である事は、ギアッチョにもすぐに理解出来た。

ウォォォォォォ!
 ビィタァァァティアアアアアーズゥ!


 ギアッチョの絶叫とともに、J・ガイルへと注がれる「氷のミサイル」はさらに激しさを増す。
 しかし、その氷の間を飛び交う「光線」は止まらない。

ドドドドドドドドドォッ!

 J・ガイルに全弾が注がれた時、光は…形を消した。
 どこへ行った?
 ヤツは…
 くたばったか!?

 その瞬間!
 ギアッチョの網膜に、スタンドのアップが投影される!
 メガネにクソボーズのスタンドが!?
 こいつのスタンドは…
 やっぱり光のスタンドかッ!?
 チクショオ…
 しくじったぜ…

 ギアッチョに左手のナイフが襲い掛かる。
 ギアッチョも覚悟を決めた。
 リゾットに、心の中で詫びながら。

 しかし…
 次の瞬間ギアッチョが見たものは己の血ではなく、朽ち逝くハングドマンの姿だった…。
 目の前で止まったナイフは己を貫く事なく、サラサラと崩れ去っていく…。

 つまり、J・ガイルは絶命した。
 手足は「氷の楔」によって壁に打ち付けられ。
 眦からは血の「涙」を流し。
 片手片足のその姿を横たえる事なく。
 その様は、まさに「殉教者」そのものだった。

 ギアッチョはフラフラしながら一人呟く。

「チクショオ…
 結局…
 宝石は取り損なったじゃねーか…。
 ムカツクヤローだ…。
 死んで、逃げる気かよ…
 テメーの本気、もっと見せてみろよ…
 アア…?」

 そして、ギアッチョはその身を床に預けた――――



勝者……ギアッチョ!





「リゾットか!?
 メローネだ!
 心配になって様子を見にきたら…
 ギアッチョが!
 とにかくはやく来てくれ!」



エピローグ 「生き続ける」夢


 まさかイタリアで仏教の葬式を見るとは思わなかったが、まぁこれはこれで面白い趣向と言える。
 あの激闘で坊主の方は敗れ去り、結局命を落とした。
 しかし、今度ばかりは「善人ぶりやがって」と一方的に言う事は出来ない。
 彼は、人の生きていくべき「道」を示してくれた。
 彼は、わたしに、少女に、強い意識を、そして「夢」を見せてくれた。

 残念ながら、わたしはもう「人」ではない。
 わたしには「欲望」と「夢」の違いなどわからない。
 当然、「執念」と「強い意志」の違いもわからない。
 ただ、彼の為に、例の少女が、例のカウボーイが、そして始めて見るが―車椅子の男が泣いている。
 「仕事」柄、わたしも何度か葬式に行った事はあるが―
 こういう場所で涙を流されるってのは、それだけそいつが惜しい人間だったという事だ。
 本当に「人柄が偲ばれる」ってヤツなんだろう。

 わたしが死んだ時、誰かわたしのために泣いてくれたのだろうか。
 誰かの心の中で、「精神」や「夢」としてでも、わたしは「生き続けて」いるのだろうか。

 わたしの名前は吉良吉影…
 こんな光景を見た所で、わたしがいつ、どんな風に死んだのかは当然思い出せない。
 …ひとつだけ言えることは、自分は決して天国に行けないだろうという実感があるだけだ…

 これからどうするのか、それもわからない。

 ただ…
 この坊主と、もう一人のメガネ男のおかげで、わたしは「生きる」ことの意義を見出せたのかもしれない。
 この時が永遠に続くというのなら―
 「生きる」ことを文字通り「生きがい」にしておけば「幸福」になれるかもしれない……

 それにしても、すてきな青空だ…。
 今夜はどこかで「夢」をみることとしようか―





 ギアッチョは自らの運命を待っていた。
 今度の任務は、今までで一番難しいものとなるだろう。
 ボスの娘、トリッシュの確保―

 「容易」な任務であるはずだった。
 ポルポの元からボスの下へと移される彼女を、途中にて強奪する。
 それだけのはずだった。

 ギアッチョは己の右腕を見る。
 リゾットによって繋がれた右腕。
 もう完全に感覚は戻ってる。
 充分に戦える…
 いや、ここで闘わなければならねー。
 仲間のために、そしてリゾットのために。

 思えばこの「右腕」の時も、簡単な任務のはずだった。
 ガキから、宝石を取り上げる、それだけのはずだった。
 オレは結局、クソボーズを殺すしか出来なかった。
 「予定外」とは何にでも起こるものだな…。

 「バカにしやがって…」

 ギアッチョが一人軽く呟く。

 リゾットが仲間の「死」を弔う事の出来なかった無念。
 そこからだ、オレ達の執念が始まったのは…。

 麻薬の利益、広大な縄張り、強大な権力。
 リゾットを含め、オレ達は誰一人としてそんなもの望んじゃいねー、いや、いなかった。
 オレ達は仲間に対する報復、そしてリゾットの「夢」に賭けたんだ。
 リゾットがボスになれば、もうムダな「コロシ」なんか起こらねー。
 少なくともオレは、リゾットに賭けたんだ…。
 そのため、オレは今まで色んな人間の「夢」と「希望」を踏み躙ってきた。
 クソボーズもその一人だ…。
 アイツは単なる変態ヤローでも何でもなかった。
 それは、闘ったオレが一番わかったつもりだ…。
 それこそ、敬意を表したいくらいに…

 だが、オレ達にはもっと強い「夢」がある。
 あの場も退く訳にいかなかった。
 そして、オレは、ここでも退く訳にいかねー。

 ギアッチョは思い起こす。
 あれから反旗を翻したオレ達は思わぬ敵に当たっている。
 オレ以外の仲間は、みんなヤられていった…。

 本当にテメーがしょーがねーほどくだらねーホルマジオ。
 いつも余裕をカマしてたイルーゾォ。
 悟ったような事をホザくプロシュート。
 バカでビビリのペッシ。
 そして、電話越しにメローネまで。

 ヤツらにどうして仲間が負けていったのか、わからねー。
 ただ、ここでオレまでヤラれる訳にいかねー。
 オレには、リゾットには、夢がある。
 オレの仲間の夢も、オレの中でまだまだ生き続ければ…
 そう、仲間の賭けた命の重みをオレは背負って―

 ギアッチョはふと我にかえる。
 車の排気音。
 そして目の前を一台の車が通り過ぎる。

 「運命」は…訪れた。
 標的を見つけたギアッチョの顔は微かに歪む。
 こいつらが、オレ達の「夢」を…
 そこにはもはや春の陽気はなくなっていた。

 そしてギアッチョは走り出す。
 仲間のカタキを討つために。
 そして、「夢」に一歩でも近づくため。
 ギアッチョは、いや「彼ら」は走るのをやめない。
 その先に何があろうとも、その先に何が待ち構えていようとも。



END




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対戦ソース

J・ナッシュさんの「J・ガイル」 / 戦慄の雲さんの「ギアッチョ」


この対戦小説は J・ナッシュさんと戦慄の雲さんの対戦ソースをもとにかいがらが構成しています。
解釈ミスなどあるかもしれませんがご容赦ください。
J・ナッシュさんと戦慄の雲さん及び、J・ガイルとギアッチョにもありがとう!

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